TIME
「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が、ジャスティン・ティンバーレイクとアマンダ・セイフライドを主演に迎えて描くSFアクションサスペンス。科学技術の進歩によりすべての人間の成長が25歳で止まり、そこから先は貧困層には余命時間が23時間しかない一方で、富裕層は永遠にも近い時間を手にする格差社会が生まれていた。ある日、ひとりの男から100年の時間を譲り受けた貧困層の青年ウィルは、その時間を使って富裕層が暮らす地域に潜入。時間に支配された世界の謎に迫っていく。
ーーー映画.comより抜粋
前回の更新で少し触れた通り、非常に論ずるのが面倒臭い作品です。なんせアンドリュー・ニコル監督という人物は独特の作家性をお持ちで、乱暴にその特徴を纏めてしまうと「予め決められた人間の優劣や拘束から脱却する」お話を作り続けて来た監督。映画デビュー作である『ガタカ』然り、脚本で参加した『トゥルーマンショー』然り、ある制約のある近未来的箱庭を設定して、登場人物がその箱庭を打破していくストーリーを一貫して描き続ける。本作でもそのアイデンティティは貫かれています。この『TIME』でのテーマも無理やり一言で要約すると…
非常に分かりやすい“資本主義DIS” と、見せかけて…
冒頭の作品紹介や予告編、TVCMを見てもお分かり頂ける通り、全編を通して言っている事はズバリ「TIME IS MONEY」。こんなアートワークも出されてます。
分かり易い。実に分かり易いテーマではありませんか。
寿命が可視化されたら…?一部の富裕層が「通貨」を独占していたら…?そもそも、この「通貨」の概念を持ち出したのは誰なのか…?
そんな“制約のある箱庭”に魅力を感じるなら、劇場で鑑賞する価値はあります。そこは断言できます。
ただね、テーマはこんなにも分かり易いのに、作品中では分かり易い着地をさせてくれないのが、この作品の面倒臭いところなんですよ。
※以下、今回はやや強めのネタバレが入りますので、予備知識無しで鑑賞したい方はご注意下さい※
この作品、主人公が義賊として富豪から金を奪って庶民に配る『石川五右衛門』になる…と見せかけて、そう安易に話は転がりません。富裕層区画に入り込んだ主人公が、高級ホテルのスイートでまったりしてるシーンを挟んだり、良かれと思って10年の“時間”を分け与えた親友が、その“時間”で酒に走り死んでしまったり…。富豪に「貧民に“時間”を与えたところで何も解決しない」という直接的なセリフを用いてまで、「通貨」を貧民に分け与える事≠良き事とする描写をちょいちょい挟み込んで来るんです。
で、「主人公の父親が何をしたのか」とか「そもそもこの世界の構造を造り出したのは誰なのか」といった、観客が「そこを知りたい!!」思うであろう要素を、中途半端に触れるだけで丸ごとスルーして、ボニー&クライドよろしく主人公達がとある施設を襲撃しようとするところで、本作は幕を閉じてしまうのです。
これはもう本当に、ものっっっすごい消化不良を起こします。なんでしょうね、「体制打破行き」の電車に乗ってたつもりなのに、いつの間にか終点では「ま、自分でなんとかしてよ」って言われて出発点に戻されていたような。ちゃんと起きていたのに降りるタイミングが分からなくて山手線を一周してしまったような。
とにかくラストの締め括り方が、この絶大な消化不良感の原因。前述したように、「通貨」を貧民に分け与える事≠良き事の描写を入れておきながら、ラストは「通貨」の製造元を襲撃して“時間”を根こそぎ奪ってやろうという締め括り。それで格差社会が解決するべくもない事は、よほどの日和見主義でない限り明らかな筈です。
このラストのせいで、細かいディテールまで気になってしまいます。
互いに手を繋いで上下させるだけで、頭に念じた分だけの“時間”のやりとりが可能、という設定。そんな簡単に“寿命”がやりとりできてしまうなら、そもそもこの世界、成立しないでしょ、と野暮ったい事まで言いたくなる。皆が生きる為に必死になり、可能な限り力尽くで“時間”を奪い合うディストピアしか成立し得ないのでは?
終盤、100万年分の“時間”が詰まったカプセルをスラムの人々が分け合う描写があるのですが、常に死と隣り合わせで生きて来た人々が、そんな平等に仲良く“時間”を分け合うか?それまでの切迫から少しでも長く逃れる為に、可能な限り多くの“時間”を確保しようと、それこそ死屍累々の奪い合いが勃発しそうなもんです。
当方はよく、「映画が開始した時とは予想していなかった場所に連れて行かれるのが良い」とか「“答え”は観客に委ねるお話が良い」とか言ってますが、本作は「格差社会は嫌だから、あまり意味無いかもしれないけど、試しに銀行から金奪ってバラ撒くのってどう?」って世間話をされただけに過ぎない気がしてしまいました。仮にもこの状況を良くしようぜ!ってベクトルにお話を向けておいて、造幣局(らしき場所)をぶっ潰そうぜ!で締め括って良いのか?
<結論>
結局のところ作中の問題は何も解決されません。序盤の展開にそれなりの見応えがあるだけに、相当な消化不良に陥る可能性が高い作品です。「いやぁ…、格差社会って難しいよねぇ…」という、監督の世間話に付き合う心持ちで観れば十分に楽しめます。もし本作がシリーズ化されて、最終的にはこの世界の構造を打破する所まで物語が到達するのなら、続編も期待したいと思いました。
あああああああ、ほんっとに面倒臭い作品だった…。
次回も相当に面倒臭い、『ポエトリー アグネスの詩』です。
近日中に更新します。