※当ブログの趣旨※

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某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。

・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば

この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。

2012/02/07

長文映画レビューシリーズ 『荒川 アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』



荒川 アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE

2度にわたりTVアニメーション化もされた中村光の人気コミックを、林遣人と桐谷美玲の主演で実写化。絶対に他人に借りを作らないことを信条とする大財閥の御曹司リクは、川で溺れかけたところを自称“金星人”のホームレス少女ニノに助けられる。リクは命を救われた借りを返すため、ニノの要求に応えて個性的な住人たちに囲まれながら荒川河川敷で暮らし始めるが……。2011年夏からドラマが放送され、続けて12年春に映画が劇場公開される。 ---映画.comより抜粋


予告編での余りのインパクト(主に山田孝之)から、中村光作品の一切を未読、アニメ・TVドラマ版も未見という完全なるAUTB童貞状態で鑑賞。ギョッとしてしまうようなビジュアルを初めとした設定を前に、「一体どんな話なんだろう?」というワクワクを持続させつつ、盛大に地雷を踏む覚悟も持って劇場へ向かいました。結果、この「童貞状態」は本作を楽しむのに奏功したと言えます。少なくとも、ドラマ版と並行して撮影が行われた上、序盤の殆どはドラマ版の総集編に等しい作りのようなので、TVドラマを観ていたら「退屈」と思わずには居られなかった筈です。

一言で表現すれば…

「言いたい事は山ほどあるが…憎めない!!」といった印象。

予告編初見時に「お、クロマニヨンズが主題歌!?…あ、ごめん50回転ズだった」と一人で赤っ恥をかいたのは完全に余談です。


※以下、多少のネタバレが含まれます※


巻き込まれ型ドタバタ人(?)情劇。その"ドタバタ"に観客までメタ的に巻き込んでやろうというハチャメチャな作品。このハチャメチャを一緒に楽しめねぇ奴は…


「ROCKじゃねぇ!」

金星人がどうとか河童の正体とか星がどうとか、そんな事をグダグダ言ってる奴は…

「そんな"ボーダーライン"は飛び越えて楽しめ!」


と開始からたっぷり5分を掛けて、観客に挑戦状を突きつけてきます。これを、キャラの掘り下げが浅く、全体に漂うチープなB級映画感のエクスキューズと捉えてしまったら、間違い無くこの作品には乗れないでしょう。当方は「童貞状態」が功を奏して「よっしゃ来い!」と、作中の河童さながらに、がっぷり四つで組み合う事が出来ました。

だからと言って、傑作!とか感動!とか誉めちぎる気にはさらさらなれないのも事実。明らかに登場人物が多過ぎて、一部キャラは殆どモブ化してしまっているし(この辺はTVドラマ版で補完されているようですが)、肝心の主人公の成長は非常に性急に描かれてしまっていて、いつの間にか河川敷の面々と勝手に打ち解け、いつの間にか「お金では買えないモノ」とやらを見つけたらしく、勝手に父親と対立する。しかも"ダラダラした立ち話で戦う"という驚愕のクライマックスを経て、勝手に勝利を手にする。リクはとにかく感情移入し辛いキャラになってしまっていて残念。

でも、これは後から読了して分かった事ですが、そもそも原作は連載での少ないページ数を笑いで敷き詰めた、キャラ頼みのギャグ漫画に他ならず、登場キャラの誰もが成長しない、サザエさん型のお話なんですよね。そんな原作が持つ、笑いの中のほんの僅かなペーソス感を必死に切り取って薄く伸ばしたら、こんな感じのお話になるだろうなぁと思うと、妙に合点がいってしましました。

そんな中でもキラリと光るキャラ付けが出来ていたのが、ヒロインである二ノ。原作よりキュートさを増していて感情の機微が見えるし、金星語の仕掛けなんかもなかなか秀逸。桐谷美玲の達者とは言い難い演技が逆にハマっていて素晴らしかったです。特に「こくごノート」に記された「わざとまけてくれた」には…!不覚にもホロリとさせられてしまいました。

その他にも「答えは風に吹かれてもいるが、水の中にあったりもする」的なセリフ遊びも良かったし、バーガー屋での"小栗旬一派"のシーンは不気味で惹き付けられたし、ラストでオープニングの"水中シーン"の謎を巧みに見せるあたりも…やっぱり憎めない!

それだけにクライマックスの描写のチープさは目に余るし、ドラマ版の再編集でしかない序盤はもう少し工夫を凝らせなかったものか。やはり「童貞」で本作に出会えたのは大きな幸運だったのでしょう。
様々な消化不良や説明不足でノリ切れない場合は、「そんなのROCKじゃねぇ!」と"ボーダーライン"の向こう側へ、自分を無理矢理にでも飛翔させられるかどうか。個人的には、「最前で暴れる程じゃないけど、このバンドは憎めないな」といった感じで、アマチュアバンドを小さいライブハウスで見守るようなノリで楽しむ事はできました。


最後にこれまた余談ですが、わざわざメッセージを活字で可視化してまで訴えかける手法は『モテキ』なんかでも多用されていて、最近のTV作品や邦画のポップ手法として流行ってるんですかね。