※当ブログの趣旨※

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某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。

・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば

この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。

2012/03/04

(いまさら)長文映画レビュー 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』



ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンの処女作にして遺作となった大ベストセラー小説の映画化。原作は、著者の死後、世界中で2100万部を売り上げたミステリー巨編。主演は新星ノオミ・ラパス。40年前、スウェーデンの資産家の邸宅から忽然と姿を消した少女がいた。少女の親族から捜索依頼を受けたジャーナリストのミカエルは、背中にドラゴンのタトゥーを入れた天才ハッカー・リスベットの協力のもと、事件解明に挑む。
ーーー映画.comより抜粋


ハリウッドリメイクである、デヴィッド・フィンチャー版の『ドラゴン・タトゥーの女』が素晴らしかったので、本家スウェーデン版も早速レンタルして鑑賞。今回はそのハリウッド版との対比をメインとした語りになりますが、最も顕著な違いにして最大の長所であるのはこの点。

ミステリーとして、めっっっちゃめちゃ面白い!!!

ハリウッド版のレビューでも触れた通り、フィンチャーの『ドラゴン・タトゥーの女』はやはり、キャラクターの造形にかなりウェイトを傾けて作られていたんですね。ミステリーとしての謎解きとか人間ドラマは二の次にして、相当キャラを(悪く言えば)デフォルメしてリメイクしたんだな、と。スウェーデン版が本格ミステリーだとしたら、ハリウッド版はちょっとアメコミ的ですらあるというか。

当方はハリウッド版のリスベットが「超」が付くぐらい大好きですが、このスウェーデン版はミステリーとしての完成度がメチャクチャ高い。DVDでは劇場未公開シーンを加えて、180分を越える収録時間になっているのですが、その分設定や人物の紹介が実に丁寧に説明されていて、どんどん続きが気になってしまうストーリーテリング。長尺を全く感じさせない大傑作でした。これを観たら(そして原作小説のファンなら)ハリウッドリメイクの“デフォルメ過多”に違和感を覚えてしまうのも無理もないですね。


※以下、多少のネタバレが含まれます※


逆にハリウッド版も「思ったより忠実に作られていた部分もあったんだな」と気付くシーンも多々あります。作中で使われるメインPCが軒並みMacだったり、壁に写真を貼って相関図を作るのもそうだし、特に序盤は展開やカットの作り方までそっくりでした。ハリウッド版の方が面白くなっていた要素もあって、リスベットの後見人弁護士なんかはデフォルメがされた分、ハリウッド版の方がより最低最悪の下衆野郎として機能していたと思うし、これもレビューで挙げましたが“エスカレーターアクション”はハリウッド版のオリジナルアイデアなので、あれはやっぱり良かった。

このスウェーデン版は、当方の様なあまり積極的にミステリー小説を読んだりしない層にも、物凄く分かり易く物語の中へ誘ってくれるのが、まず好印象。真犯人が分かっている状態で見ると顕著なのですが、序盤で「誰が真犯人なのか」をさりげなく匂わす作りにも、思わずゾッとさせられました。

何よりも主要の登場人物の掘り下げが本当に丁寧で、それだけでグイグイ引き込まれてしまいます。実はミカエルと「ハリエット」との間に、幼少の頃からの“因縁”があった点は、「闘争相手の弱みを教える」という人参をぶら下げる事でミカエルが動き出すハリウッド版と比較しても、この物語が転がり出す動機としてより絶妙に機能していました。真犯人も「ちゃんと」下衆野郎として見る事ができますので、ハリウッド版の「真犯人ショボ過ぎ問題」が浮き彫りになりますね。

唯一イチャモンを付けるとしたら、ラスト近辺のとある場面で、ミカエルがグラサンを付けてたり外してたりして“繋がり”が崩れているシーンが気になってしまったくらい。これはいくら「完全版」とは言えども、カットすべきシーンだったのでは。ま、笑って許せるレベルなんですけど。

<結論>
人物を丁寧に丁寧に掘り下げている事で、ミステリーとしても人間ドラマとしても全編を通して深みがあります。ラストのカタルシスもこれによって非常にダイナミックになってますし、速攻で残り2作も鑑賞したくなりました。
ハッキリ言って、ハリウッド版より面白い!!とすら思います。あちらはフィンチャー特有の悪趣味が発露され過ぎているきらいもあったし、やっぱり「ネコ」をあんな扱いにしやがった罪は重い。リスベット単体の“フォルム”で言えば、ハリウッド版の方が断然魅力的なんですけど、それってやっぱりアメコミ的な魅力だったなぁと再確認致しました。


これにより、ミレニアムシリーズの続編『火と戯れる女』、『眠れる女と狂卓の騎士』も近々レビューする事になりそうです。その前に、次回の更新は2011年上映作でベストとの声も聞かれた『ゴーストライター』の、いまさらレビューとなります。