「JUNO ジュノ」の監督ジェイソン・ライトマン&脚本家ディアブロ・コーディのコンビが、主演にアカデミー賞女優シャーリーズ・セロンを迎え、再タッグを組んだコメディドラマ。児童小説家のメイビスは、夫と離婚後すぐに故郷ミネソタに帰ってくる。そこで、かつての恋人バディに再会し復縁しようとするが、バディにはすでに妻子がいて……。
ーーー映画.comより抜粋
「こんなに必死に生きてきたのに、この空虚さは何だ?」
「形だけのラグジュアリーを手にして、それが成功か?」
そして…「大人になるってどういう事だ?」
そんな普遍的で身に沁みるテーマを描き、答えは作品内で提示する事無く観客に投げかける、ジェイソン・ライトマン監督の前作『マイレージ・マイライフ』の大ファンとして、かなり期待値高めで劇場に足を運びました。タイトルを見てお分かり頂ける通り、本作『ヤング≒アダルト』は…
「“大人”ってどういうこと?」
「あなたは理想の“大人”になれたの?」
「あの頃の自分の方がよっぽど輝いてたんじゃないの?」
…というストレートなメッセージを、残酷なまでにこれでもかと投げかけて来ます。今更どうする事も出来ない、“過去の自分”に、少しでも縋ってしまう瞬間がある人なら、間違い無く楽しめる傑作でしょう。
ただ、あちこちで本作の評価として使われている通り、とにかくあらゆる意味で「痛い!」作品でもあります。見るに堪えないくらい痛いんだけど、どこかで主人公とリンクしてしまって、気付けば「これは…俺の(私の)物語なんじゃないか…?」と思わされてしまう、恐ろしい引力。その引力のせいで、物語のクライマックスでは主人公と自分との落差を感じてしまうリスクもあるのですが…その点は後述したいと思います。
本作の面白さはオープニングに見事なまでに集約されていました。Youtubeにも上がっていたので貼っておきます。過去に捕らわれた主人公が、きょうびカセットテープを引っ張り出して聴いている事自体が象徴的なのですが、テープもプレイヤーも“まだちゃんと動く”ってところが巧いし、ハリウッド版のドラゴンタトゥー並みにカッコ良いオープニングでした。
※以下、多少のネタバレが含まれます※
本作の主人公メイビスは、偏ったキャリア志向だし高飛車だしすぐ嘘吐くし、自分に都合の悪い意見は完全シャットアウトして、ちょっと自分を誉めて肯定してくれただけで絶望からも立ち直る超自己中。自己顕示欲の塊が服来て歩いている状態。おまけにビッ●でヤリマ●(作中で出てくる形容ですよ。念のため)のロイヤルストレートフラッシュ。それなのに気付けばコイツを憎めなくなるのが映画マジックであり、本作最大の見せどころ。
美人で、仕事も傍から見れば(日本で言えばラノベかケータイ小説に当たる“作家”で、誰よりメイビス当人がその分野に満足していないものの)充実している、正に才色兼備。
…と見せかけて、飼い犬への餌は手抜きだわ、切れかけのプリンターインクは唾液で水増しするわ、見栄張ってホテルのカードキーは2枚頼むわ、自分の話ばっかりしたがるわ、他人の幸せを自分の都合のみで破壊しようとするわ、おまけにそれが相手の幸福にもなると勝手に思い込んでいるどうしようもないヤツ。だからこそ、それだけこのキャラに引っ掛かるフックが沢山用意されているとも言えて、全てはとても書き切れませんが、キャラの描き方は見事の一言に尽きます。
過去の栄光に縛られているメイビスの鏡として、過去の屈辱に縛られているマットとの対比が象徴ですね。
メイビスに面と向かって「君は狂っている」と言えるのはマットだけで、陰惨過ぎるトラウマで障害を抱え、オタク化しているマットに「もっと早く歩いてよ」と言えるのもきっとメイビスだけ。かつてはヒエラルキーの頂点と底辺に居た者が、現在では唯一の理解者として認め合えてしまうこの構造は、歪ではあるけども互いの救いとして感動的でした。
そうしたキャラの積み上げが実に見事であるが故に、クライマックスでのメイビスの暴走で「そこまで生き恥を晒してやるなよ!」と、スクリーンに向かって叫びたくなる。そこまで存分にメイビスに感情移入してしまっているので尚更、主人公を惨めな晒し者にされた様な気がして、「痛い!胸糞悪い!痛い!酷過ぎる!」と憤然としてしまうのですね。
ここでそれまで観客に知らされていなかった重大なメイビスの過去も暴露されるので、宇多丸師匠の番組で紹介されたメールにもあった通り「これは俺の(私の)物語ではなく、メイビスのパーソナルな物語なのでは…?」と、強烈に作品から突き放されたような落差を感じてしまう。個人的な好みの話ですが、あんなにもヤケクソ赤っ恥シークエンスにすること無いのに…もったいないなぁ…と、奥歯に物が挟まったような消化不良感を覚えてしまいました。
ただそんな消化不良感すらも、おそらくは制作者側の思惑通りで、「だからあんなにも赤ちゃん画像に食いついてしまったのか…」と、冷静に序盤を振り返る事で腑に落ちるシーンが沢山あるんですよね。巧いなぁと言うしかない。そして自分の味方に心情を吐露して、同意を得ることで(多少の反省もしているのだろうが)完全復活を果たすメイビス。痛すぎる赤っ恥をかいても、30年以上積み重ねた己の性格はそうそう変えられない。凹んだ車同様、自分もすっかりポンコツになっちゃったけど、それでも………
「まだ走れる!!」
こんなにも歪でどうしようも無い主人公に、なんだかんだで背中を押されてしまう、素晴らしい作品だったのではないでしょうか。オープニングとの対比も最高です。
<結論>
三歩進んで二歩下がっちゃったけど、また一本踏み出そう、踏み出すしかねーんだよ!そんなラストに、同じように踏んだり蹴ったりの日常を生きる我々もまた、一歩踏み出す力を分けて貰える。映画のマジックを存分に味わえた傑作でございました。
ただし、やっぱりクライマックスは痛すぎる。そして最終的にマットの扱いが不憫過ぎる。ほんのワンカットでも良いから、その後のマットにも触れて欲しかったのに放ったらかしだから、「結局メイビスって最低最悪じゃん!!」と集中砲火を浴びても言い訳が出来ない気がします。だとしても、鑑賞後に自分の恋愛観や人生観を多いに語り合いたくなるという意味で、やっぱり映画として傑作だと思うのです。それまでの自分の人生によっては、生涯最高の作品となる可能性すら秘めているのでは。ぜひ騙されたと思って劇場へ!!
次回はスウェーデン版「ミレニアム」の2作目をいまさらレビューの予定です。