※当ブログの趣旨※

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某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。

・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば

この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。

2012/03/19

(いつも以上に)長文映画レビューシリーズ 『おかえり、はやぶさ』




世界で初めて地球から3億キロ離れた小惑星イトカワの微粒子を採取して地球へ帰還した無人小惑星探査機はやぶさと、そのプロジェクトに携わった人々のドラマを全編3Dで映画化。18年間に及んだプロジェクトを、計画に携わった人々の親子の絆や再生を交えながら描く。監督は「ゲゲゲの鬼太郎」「鴨川ホルモー」の本木克英。


過去の『はやぶさ』関連作品を全て鑑賞してしまった為か、この作品だけは嫌でも観なければならない強迫観念に捉われ、3Dで(評判の宜しくないXpanDではありましたが)じっくり見届けて来ました。劇場を出た後には、映画への感想はともかくとして、「やった…おれはやってやった…!」と、“はやぶさクロニクル”の全てを目撃した自分を最大限労ってやりました。

当方の『はやぶさ』へのスタンスや過去作への評価は、前作に当たる『はやぶさ 遥かなる帰還』のレビューをご参照ください。堤幸彦版、渡辺謙版、そして今回の3D版と劇場用の三作ばかりが話題を集めていますが、全天周版のことを絶対に忘れないで下さいね。ちゃんと映画館でも上映されたんですから。そして今回の『おかえり、はやぶさ』を見終えての感想は、この一言に尽きます。

“はやぶさクロニクル”は、やはり全天周版こそが至高!!



※以下、多少のネタバレが含まれる上、史上最長クラスの長文となりますので、興味の無い方は読み飛ばして下さい。興味ある方も斜め読みをオススメします※



かなり子供向けに振り切った作りになっているのだろうと覚悟はしていたものの、のっけからいきなり藤原竜也が重々しいトーンで

「奇跡の惑星、地球…」

とかモノローグし始めた時には、何かの啓蒙映画か宇宙戦艦ヤマトでも始まるのかとソワソワしてしまいました。デフォルメされた『はやぶさ』に前田旺志郎を跨らせたCGにも心底ギョッとさせられましたが、子供たちに『はやぶさ』を説明するくだりで大塚愛のあの曲が流れる場面に至っては…「そのシーン、要る?!」と脳内で叫ばずには居られず…。

あぁやっぱりか、と。分かってた事じゃないか、と。開始10分ほどで、半ばこの作品を楽しむ事を放棄しかけました。子供たちがこの映画を観て、何かしらの夢や希望を胸に映画館を後にしてくれれば良いじゃないか、と。…が、しかし。前述した通り、中盤までは意外や意外に相当楽しめました。このまま行けば、無事に“着地”してくれれば、少なくとも今年公開の邦画の中ではトップクラスで良いんじゃないの?と思えるまでに。

まず特筆したい点として、プラネタリウム的な宇宙の描写と3D演出って、とっても相性良い!!
これは個人的には新鮮な発見でした。と言うのも『アリス・イン・ワンダーランド』を観た時に当時のブログにも書いたのですが、「飛び出す」よりも「奥行きが出る」という表現の方が近い3D演出に於いて、せっかくの色使いや美しい背景が遠く、暗くなってしまうのはデメリットの方が大きいのではないかと、ずっと感じていたのです。それこそ『アバター』レベルの予算を掛け、3D演出前提で制作された作品をIMAXなどの優れた環境で観れば話は別ですが。

ところが、背景は殆ど暗闇である宇宙空間であれば、スクリーンがどうしても暗くなってしまうXpanDで観てもそれほど違和感が無い。『スターウォーズ』みたいに、スピーディー且つ壮大な宇宙戦が展開されるわけでもないですから、悪く言ってしまえば誤魔化しが効く。『はやぶさ』と一緒に宇宙にぽっかりと浮いているような感覚が味わえましたし、『アバター』以外の作品では初めてと言っていいくらい、3D効果を純粋に楽しめました(あくまで宇宙空間の演出部に限りますが)。

そして目からウロコだったのは、『はやぶさ』関連作ではすっかりお馴染みの「はやぶさ擬人化作戦」を、「さぶっ!」と主人公の口から直接的にDISる点。かと言って「擬人化」に夢を抱く側(本作で言えば杏)を一方的に切り捨ててしまうのではなく、ちゃんとその発想に至るキッカケも掘り下げてくれる。これはなかなか粋な演出だったのではないでしょうか。三浦友和と藤原竜也親子が決定的に対立してしまうシーンもなかなか良く出来ていて、本作のテーマもここで堂々と掲げられます。『遥かなる帰還』の「俺たち普通の日本人の技術の結晶が、この奇跡を生んだ!」というカタルシスに対して、本作は「どんな大失敗も、諦めなければ大成功に繋がる!」(キリッ)という、一種のリベンジ劇に重点を置くんですね。むしろここまで来ると「子供向け作品でここまで掘り下げていいのか?」と余計な世話を焼きたくなってくるレベル。自分が10歳児だったら確実に寝てますね。 


しかしながら残念なことに、返す返すも後半が酷い。他作品に『はやぶさ』映画化の先を越され、焦るあまり雑にお話を畳みにかかったのではないかと邪推したくなるくらい。

とりあえずそんなあっさり海外でドナー見つけるなよ
「宇宙プロジェクトは失敗しても直ぐ次のプロジェクトに(しかも税金で)移行できるが、人命はそうはいかん」という提示が一瞬で軽くなる。それでなくても、小学校低学年の教科書かよ!ってレベルで、セリフも演出も説明的に作られている作品なのに、人命までご都合主義で扱われたらさすがに腹が立ってきます。あんなに意固地だった三浦友和もあっさり講演に復帰しちゃって、しかもその講演は少ししか描写しないし…。

要するにですね、『はやぶさ』がいざ帰還するぞ!っていう映画のクライマックスを迎える前に、登場人物たちの問題はあらかた片付いちゃってるんです。それなのに超説明的なセリフが引き続き羅列されるので、もういい加減白けてきちゃって、いよいよ本当に啓蒙されているような、プロパガンダを見させられているような気分すらしてくる。挙句「私達に、『新しい道はこっちだよ』って示してるみたい…」と勝手な概念を押しつけるセリフが放たれた日には…。それは絶対にセリフにしちゃダメだろうがよ!!!

そもそも映画館にわざわざ観に行く層の殆どは、『はやぶさ』のストーリーの着地点はとっくに知ってるでしょう。満身創痍で地球に辿り着いて、「最後に故郷を見せてあげよう」って写真撮って…………そのクライマックス、いい加減食傷です。


「ま、子供向けだからさ」って挙げた拳を下ろす事もやぶさかではないのですが、だったら群像劇に拘らないで、もっとディテールを積み重ねて養育番組的に練り上げて、視覚効果を更に徹底して追及すべきだったのでは。繰り返しますが、絶対にあの中盤で子供は飽きますよ(現に並びのお子さんは気持ち良さそうにお眠りになってたし)。子供を楽しませる事も中途半端で、保護者層にはご都合主義を押しつけてちゃあ世話ねぇよ、と。

大気圏で燃え尽きた『はやぶさ』を見る事で、三浦友和はもう一度宇宙に思いを馳せ、講演を再開するなり復職するとか、ドナーはなかなか見つからないけど、それでも奇跡を信じて強く生きようとか、ちょっと演出の配置と順番を変えるだけで全然良くなると思うんですけどね。それでエンドロールで、元気になった三浦友和や森口瑤子を描写すれば良いじゃないですか。少なくとも、カンニング竹山に取って付けたようなプロポーズをさせたり、劇中最後の最後がダントツで「サブい」わ!!と言わざるを得ない、どうしようもないセリフで幕を閉じて「はい、群像劇でしたよ~」っていう、文字通りの“子供騙し”をされるよりは。

『遥かなる帰還』では中途半端な扱いだった「はやぶさが見つかるパーセンテージ」のトリック(実際は「条件が揃うパーセンテージ」)をやってくれたのは嬉しかったし、これ以上ないくらいイヤミな“蓮舫DIS”には「よくぞ言った!」と賛辞も贈りたい

それらの長所を全て帳消しにしてしまうくらい、後半はグダグダ。そして、あまり周りで言及されている方が居ないのですが、特に終盤の「音楽」はヤバくなかったですか?。エキセントリックとかいう域を超越しちゃってて、ちょっと正直恐ろしくすらなりましたね。御大・冨田勲さん、どうしちゃったんでしょうか…。




<結論>
「はやぶさは映画より奇なり」とでも言いますか、やっぱり劇映画と『はやぶさ』の食い合わせは悪い。何回も言いますが『はやぶさ』の物語は、びっくりするくらいご都合主義で、「奇跡」に限りなく近い現実が実際に起きたんですよ。だったらそれを取り巻く人間ドラマは、できるだけ脚色し過ぎない方が良くないですか?そう何回も起きないから、奇跡に価値があるのでは?

それが嫌なら、もっともっと思い切って子供向けのディテールを積み上げるか、やはりドュメンタリーにすべき…って事で全天周版こそが至高!という結論に行き着きますね。

これにて、“はやぶさクロニクル”はひとまず完結。思い入れが強い分がっつりと書き込みましたが、まさかここまでの長文になるとは…。駄文に最後までお付き合い頂いた奇特なみなさん、ありがとうございました。ごめんなさい。“ボロをまとったマリリン・モンロー”は、どこに着地しましたか?

次回はおそらく『ヤング≒アダルト』となる予定です。多分。公開が終わらなければ!ダッシュで鑑賞して、更新します!!