宇宙人ポール
「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」のコンビ、サイモン・ペッグ、ニック・フロストが脚本、主演を兼任したSFコメディ。地球にやって来てから60年間、アメリカ政府に拘束されていた宇宙人が脱走、イギリス人のオタクコンビと出会ったことで、騒動が巻き起こる。数々のSF映画に対するオマージュ、パロディが満載。
---goo映画より抜粋
あまりの評判の高さと、『ホット・ファズ』のコンビならハズレはないだろうという事で、久々に『未知との遭遇』的体感を味わえるのかと胸を奮わせつつ、そうは言っても類型的なジャンル映画の枠を出るものではないのだろうと過度の期待は避け鑑賞。
結果……大満足!!早くも(公開スタートは去年だが)今年ベスト級の作品なのでは??と興奮冷めやらぬ内にレビューを綴る次第です。
※以下多少のネタバレを含みます※
『ホット・ファズ』を鑑賞済みであれば、オタク臭全開の導入部から「またあの2人に会えた!!」とアガる展開。更にはこれでもかとつるべ打ちされる、名作映画へのオマージュの連発。映画ファンならニヤリとしてしまう事は間違いありません。
間違いないのですが、「名作へのオマージュ・パロディが満載!」と、さも観客の鑑賞歴を問うようなPRを前面に押し出していますので、これがハードルとなってしまい、足を向けづらい層も少なからず居るのではないでしょうか。「SFとかそんなに観ないし…」と。
でも…
そんなの全っっっ然関係ない!!
特に物語が本筋に突入する『ポール』登場後は、息もつかせぬ展開の連続で、まぁ飽きる事がありません。
ポスターで窺える通り、このポールが「エイリアン」と聞いたら誰もが思い浮かべる様な、とことん記号的”グレイ”なルックスなのがまず良いんですね。中身は長らく監禁されてすっかりアメリカナイズされた、どこにでも居そうなオッサンで、でも実は心優しくリベラル。愛さずにはいられないキャラとしてちゃんと成立していて、これは当たり前のようでとても大事なファクターを、お釣りたっぷりでクリアしてくれています。
とにかくラストまで秒単位で笑わせてくれるし、泣かせてくれるし、敬虔なクリスチャンに代表されるアメリカへのメタファーもあり(ポール自体が『良きアメリカ』の体現者と言ってもいいかもしれない)、進行している物語自体はシンプルこの上ないのに、ただならぬ懐の深さを見せてくれています。
極めつけは、今まさに別れを迎えようとしている時に放つ、ポールの「●●●●でごめんなー!」というセリフ。このセリフで個人的には「はい、オールタイムベスト級の名作!決定!!」と太鼓判を押しました。あれだけ壮大なオマージュを込めた感動的シーンでありながら、この一言でスカす間とタイミング、最高!
こんなにニヤニヤしながらエンドロールを見送った映画は、他にはちょっと記憶にありません。
全く物申したいポイントが無いとは言えません。
結局ポールを追ってた組織って何なの?無線盗聴され過ぎじゃね?というか無能過ぎじゃね?先回りすればよくね?お父さん無敵過ぎじゃね?などなど。最も気になったのは、クライマックスのあるバトルが、ちょっとお遊び感が強過ぎ切迫感が無さ過ぎる点。その後、少々シリアスな展開となるだけに、もう少しこのバトルで真剣に「命の危機」を表現して、続くシーンへの落差を付けて欲しかったところ。
そんなツッコミどころをぜーーんぶチャラにしてしまうくらい、前述したポールのセリフが秀逸でしたし、良く出来た傑作だと思います。
加えて『E.T.』『M.I.B』『スターウォーズ』『イージー・ライダー』『ベストキッド』『インディージョーンズ』『ロレンツォのオイル』あたりに思い入れのある人なら、ポールの瞬き一つからセリフの隅々まで、存分に楽しめる事は確か(漫画ファンなら『鋼の錬金術士』や『HUNTER×HUNTER』もイメージできるかも)。特にスピルバーグへの寵愛とも言えるリスペクトに満ちていますので、最低限『未知との遭遇』だけでも観返しておけば、よりクライマックスで乗れて、笑い泣きできるでしょう。死にそうなのに「帝国の逆襲Tシャツがー!!」と嘆くアイツを愛さずには居られません。
名作への最大限のリスペクトであり、下らない駄洒落であり、SFでありラブコメでありロードムービーであり「ウホッ」でもある。これだけ多彩な要素を詰め込んでおきながら、100分強というコンパクトな尺!非の打ち所無し!!
結論:必 見 !!!!
個人的には、ボブ・ディランはちゃんと存命していると信じたいところです。