ヒミズ
「冷たい熱帯魚」の園子温監督が漫画家・古谷実(『行け!稲中卓球部』)の問題作を映画化。家庭環境に恵まれない少年と愛に飢えた少女、2人の中学生の青春を切れ味鋭い独自のタッチで描く。主演の染谷将太(「東京公園」)と二階堂ふみ(「指輪をはめたい」)は、本作でヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。
---goo映画より抜粋
この映画への期待は別エントリーにてだらだらと綴りました。
スタンスとしては「古谷実作品で『ヒミズ』が一番好き!」「ここ数年の邦画では『愛のむきだし』が一番好き!」「だったら観るしかないでしょ!」と言ったところです。
それ故に、東日本大震災を受けて、大幅にプロットを書き変えたと聞いた時には、幾許かの不安が過ったのも事実。一度完全に原作を切り離して、1本の新作映画を観る心構えで2回鑑賞して参りました。
※以下、多少のネタバレが含まれます※
ざっとさらった周囲の評判を乱暴に纏めると…
・原作既読者は、ちょっと不満!
・未読者は、言いたい事はあるけど概ね好評!
・園子温ファン的には、賛否両論!
といった感じのようです。
園作品恒例の"殴り書き"も無く、被災地を横スクロールで映し出すタイトルバックから、過去のフィルモグラフィーと比較しても異質な肌触りで滑り出しますからね。
胃がキリキリ震える重低音、本当に"痛い"殴打音などを含め、音の使い方は流石。アンチ・ROOKIESとも取れるような先生の描き方や、やたらチンポジを直すでんでん、「脱原発」ドロップキック等、笑わせ所も多い。路上ライブシーンでの、ギターの絶妙な下手さ加減と、使ってるギターが某安価ブランドっていうのもマッチしていて最高。そして何より、役者陣の熱演(特に染谷将太)を引き出した点は評価されるべきでしょう。「カップルのデートの仕上げにいかがですか!?」は、『恋の罪』の「美味しいですよ!いかがですか!?」を思い出してニヤリとしてしまいました。
住田が一線を越えるシーン、クレーンを使った長回しは画的に素晴らしかったですね。ゾクっとしました。この撮り方が今作のハイライトだった。
…さて、先に良い点を列挙しましたが、この映画、原作モノである事を差し引いても、やはり 失敗 していると言わざるを得ません。
ヴィヨンの詩の朗読から始まるオープニングから、基本的に茶沢さん視点で物語が動いて行く…のかと思いきやそんな事もなく、"絞首台"の扱いに顕著なように、キャラとしての掘り下げが中途半端で投げっぱなし。住田は住田で、「普通、最高!!」と思ってる奴が、それを授業中に教室で叫ぶか?という謎っぷりを存分に見せつけ、傘を貸してくれた茶沢さんが土手を転落してもヘラヘラと見捨てようとするわ、一線を越えてからは『ドラゴンヘッド』並みに狂気の沙汰で街を徘徊するわ(普通に捕まるでしょ)…。もう全く感情移入が出来ないんですね。
何より問題なのは、懸念した通り「震災」の物語への組み込み方が無理矢理で粗暴と言わざるを得ないこと。
類推するに、かなり被災地の只中での物語に見えるが、このボート屋、船流されずに済んだの?近くに納屋らしきものが流されて来ているのに、この土手は無事だったの?流された納屋を見ながら感傷に浸って居るのに、家失ったからってそこで生活しようとする?って言うか被災直後(5月と物語上で言わせてしまっている)川でボート乗ろうとする奴居る?仮にも震災前に社長をやってた人間が、ちょっと棲家を分け与えてくれたからって、中学生をさん付けまでして敬う?只のクソ生意気なガキに「これからの日本を託す男なんです!」なんてどうやったら思えるの?吹越&神楽坂夫婦の背景どうなってんの?「帰って来なくていいよー」って何さ?園映画オールスターにしたいだけじゃないの?などなど…まぁツッコミどころは枚挙に暇がありません。
今、震災を描くんだ!という志が、お話を纏めきれなかったエクスキューズにしか聞こえなくなってしまうほど、描き方が浅薄としか言いようがない。震災を題材にするならオリジナルの別作品にして、じっくり練り上げるべきだったのではないでしょうか。
※以下、さらにネタバレが入ります※
そして「失敗」と断言してしまうほど個人的評価を著しく低下させたのは、やはりラストの演出です。
被災地の映像をバックに「頑張れ!」というメッセージを届けたいなら、さも住田が死んだように見える、ノイズとしか言いようの無い演出は絶対にすべきじゃない。最後の銃声の後、住田は何処で何をしていたんでしょう?原作との差別化を図る為に、ミスリードをしてるとしか思えませんでした。監督の言葉を借りて「青春映画」にしたかったなら、空に向かって残弾を全部撃って、拳銃を投げ捨てるくらいの、爽快な演出に何故しなかったんだろう。
この疑問を解消すべく、「4発目(茶沢さんが目を覚ます発砲音)で住田は実は死んでいて、その後の住田は茶沢さんの妄想なのではないか?茶沢さんが見たかった、"走ってる住田"しか見えてないのではないか?だから住田はオウム返しでしか反応しないのではないか(なんか言え!というセリフとも整合性が取れる)?そうか、意味不明だった"五つの石の呪い"で、メン●ラ茶沢さん自身が呪われちゃった話だったんだ!」と、一人で勝手に解釈を決めつけて家路に着きました。
普段の園作品なら、多少脚本の粗があっても、画の構成と役者の芝居で全てを振り切ってしまえるだけの"テンション"が確実にあったと思う。それも今作は「震災」を無理矢理組み込んでしまった事で、その"テンション"をも減衰させてしまっているし、日本的寂寥で少年の孤独を描く古谷作品と、クリスチャン的に大きく大きく物語を動かそうとする園監督との食い合わせの悪さも発露してしまっている。
<結論>
・「震災」の組み込み方が中途半端で非常に浅薄
・古谷実と園子温の作家性の食い合わせが悪い
=「青春映画」にも「震災の記録」にもなり得ない、どっちつかずの作品に着地してしまった。
原作の熱狂的なファンからするともっともっと言いたい事はあるのだがグっと堪えてます。残念。非常に残念。
やっぱり僕は………
ポールが大好きなんだ!!!