解説 - 50/50 フィフティ・フィフティ
余命を宣告された一人の青年とその周囲の人たちの姿を描くヒューマンドラマ。ガンを克服した脚本家ウィル・ライザーの実話を基に、新鋭ジョナサン・レヴィン監督がユーモアを交えて映画化。出演は「メタルヘッド」のジョセフ・ゴードン=レヴィット、「グリーン・ホーネット」のセス・ローゲン、「スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」のアナ・ケンドリック。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットファンとしては絶対に見逃せない1本。有楽町で観ましたが、土地柄もあってか意外にも年輩層でほぼ満員の入り。シリアスに傾きがちなテーマに対しして、全編を実にコミカルにテンポよく仕上げていて、劇場はしょっちゅう笑い声で沸いていました。
脚本家が実際にがんを告知され、見事克服したという体験談を、安易な感動や恋愛モノに寄せず、前述の通り極端なまでにコミカルに仕立て上げています。このコミカル部は本当に楽しくて、セリフ遊びも巧みで終始笑わせてくれます。
まずこの映画、『(500)日のサマー』と『マイレージ・マイライフ』の続編として観ると、主演の二人(ジョセフ・ゴードン=レヴィットとアナ・ケンドリック)により感情移入して観れます。と言うかキャラが被り過ぎていて、この2作からの後日譚としか観れなかったです。未見の方は、『50/50』と併せて観るとより楽しめるかと。
※以下、少々のネタバレ含※
ただ、特に序盤は、「生死の確立は50/50」という状況に立たされている割に、主人公はどこかのほほんとしているし、彼を取り巻く友人・家族・恋人から医師に至るまで、「ちょっとお気楽過ぎやしませんか?」と言いたくなるレベルで、悪く言えばデフォルメされて描かれます。中盤に主人公が抗がん剤の影響で明らかにダウナーになっている時も、周囲は(特に親友が)相変わらずお気楽。観客側も段々と苛々してきて、「命を扱う話で終始このノリ?」と思い始めた頃、主人公が絶妙なタイミングでブチ切れてくれて、車を使った文字通りの暴走シーンで、我々は決定的に「アダム」に感情移入してしまう。スカッ!とするんですね。名シーンだったと思います。
やっぱりジョセフ・ゴードン=レヴィットに、こういうステレオタイプな若者を演じさせたら右に出る物が居ません。良く分かってるキャスティングです。そこに、"彼女の荷物を勝手に整理する"、"爪を噛むクセがある"と言ったディテールや、「エコ派だし」なんてクスっとしてしまうセリフをサラっと加味してあげる事で、後のお気楽な展開に説得力を持たせたのが良いですね。
要するにこの手の少しナイーブな男は、癌の告知をされ命の危機に瀕している状況すら、ちょっとしたステータスとして自らに酔ってしまう、と。これ、下手に命を題材にした"感動大作"の系譜より、よっぽどリアルだと思いました。主人公に限らず、登場する誰もが「命の危機」をリアルなモノとして受け入れられていないという、その状況がリアルなんです。
体を蝕まれ、同じ病を抱える(でも自分よりずっとずっと年上の)病室仲間は先立ち、念願にして千載一遇の仕事のチャンスすら逃し、いよいよ自らの命の崖っぷちを体感する事で、ようやく主人公は車と感情を暴走させるんですね。そこまで徹底してコミカルに描いたからこその落差で、このシーンに迫力が増していると思いますし、命を軽んじたように見える序盤の演出は必然なんだと思います。
その証拠に、作中に3度ほど「Are you OK?」「All right.」というやりとりが為されますが、3度それぞれに主人公の表情・感情・状態がハッキリと色分けされていて、非常に象徴的なシーンとして演出されていました。是非もう1回劇場に観に行って、特に最後の「All right」を噛みしめたいと思わせてくれる、素晴らしい演出でした。
キャサリンの車を整理するシーンも良い。互いの心の蟠りを整理するメタファーにもなっていますし、酒も煙草もやらず、事故で死ぬのが怖くて免許を取らない男、アダムに「不憫…!」と想いを寄せずには居られません。
そんな不憫なアダムが、のほほんとしながらも成長して、今際の際に父に告げる一言ときたら…。そこまでアダムの両親、特に父親は「ちょっと恣意的に描き過ぎかな?」と観ていましたが、あのシーンはズルい。あそこは涙腺を決壊させるのが人情ってモノです。
唯一難癖をつけるとしたら、別れた元恋人だけが救われていない点でしょうか。あれだけ憎たらしく見えた親友はしっかり補完してくれただけに、この元恋人だけは少々扱いが酷いかもしれない。でもハッキリ言って、そんな事全然気にならない!だって「看護疲れが…」とか言ってやがんだよアイツ!どの口が言うか!!あんな女別れて正解!!
…と思わせてくれる程度に、他のシークエンスが本当に良く出来てますよ。
癌を乗り越えた脚本家は、このストーリーにとにかく『ポジティブ』を込めて、『病なんぞ、笑い飛ばしてしまえ!』というメッセージを込めて世に送り出したかったんでしょう。お涙頂戴や記号的な『死』に走るより、徹頭徹尾コミカルに描き切った今作は、だからこそ難病に向かい合う若者をリアルに切り出せているし、結果的に感動の度合いは増していると思います。
セリフ回しからして、笑わせ所は如何にも今風な作りになっているのですが、有楽町の年輩の紳士淑女達が要所で爆笑してるくらいですから、単純にコメディ単体としても非常に良く出来ていると言える、今年ベスト級の傑作です。是非劇場に足を運んで、『(500)日のサマー』と『マイレージ・マイライフ』のDVDをレンタルして帰られる事をお勧めさせて頂きます。
今作を受けて、今年の映画ランキングも更新致しました。