※当ブログの趣旨※
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某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。
・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば
この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。
2011/12/04
長文映画レビューシリーズ 『映画 けいおん!』
言わずと知れた人気アニメの劇場版。
この手の『人気が出たので映画版まで引っ張ります!』的映画にはさんざん痛い目に合わされてきたので、相当に身構えて観に行きました。
※どうやら劇場版の物語の根幹を、ホームページ等で公開していない(むしろミスリードしてる)ようなので、ネタバレせずにレビューを書く事が不可能でした。これから鑑賞する予定のある方は、以下読み飛ばして下さい※
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TVシリーズで高校を卒業しちゃった軽音部。
映画化に際してどういったストーリーを組むのかと思ったら、唯一の後輩部員である『梓』に、ある曲を贈るという、TV版では細部まで描き切れていなかった要素を拡大する手法を持ってきました。
ここを切り取って映画化する事で、実は幾つか問題が発生しているのですが、それはひとまず置いておいて、結果的に"梓にプレゼント"を持ってきた事自体は成功していると思います。
大学編を描いたら梓は置き去りになっちゃうし、総集編ではファンに不誠実。
オリジナルストーリーを描くなら、寧ろこれしか残っていない、と言ってもいい要素でしょう。
導入部を過ぎると、物語は「お前らの家族…随分裕福な上に放任なのな」突っ込まざるを得ない、電話一本で承諾を得る無理矢理な卒業旅行編へ移ります。
しかしここもTV版から引き続き、非常にテンポが良いですし『初海外旅行あるある』としてのユーモアで、飽きさせないように作ってますね。
そもそも元から親族が記号的にしか描かれていない作品なので、旅費とか保護者の観点とか、細かい事は(ギリギリのラインではあるが)どうでもいいんだよ、とフォローも出来ます。
演出もなかなか良く、やや展開が強引な寿司屋でのライブシーンも、序盤の見せ場として機能はしてますし、アビーロードを横断するも、本人達はなんか気付いてなさそうな件とか秀逸だと思います(ジミヘンがどうこう言ってるクセに…という不自然さは残りますが)。
何よりこのロンドン編は『梓へ贈る曲作りの為のロードムービー』というシークエンスですよね。
ビッグベンありハイドパークあり、ノルウェイの森を始め数々のUKロックシーンをオマージュしたBGMなんかもさりげなく流したりしてます。
後半のライブシーンでの、天然だけど優秀な唯のフロントマンっぷりを見ても、このシークエンス自体、本当に良く出来てます。
メンバーが帰国してからは、いよいよ梓へ曲のプレゼント、というクライマックスに向かう訳ですが、曲作りのキーイメージとなる『鳩』は、ロンドンでのライブシーンでも印象的に描かれていました。
少なくとも唯の視界には入っていた筈で、これだけで無理矢理に見えた卒業旅行に、急激に説得力が増してるんですよ。
この『鳩』の描き方一つとっても、冗長になる事も無く、気の利いた演出だなぁ…感嘆してしまいます。
おまけに、一度TV版で披露済である梓への演奏シーンには、実際に演奏してる様ではなく練習シーンをカットバックさせるという隙の無さ。
ラストのライブシーンでは、TV版オープニングと同じカットでの演出というサービス精神。
もうなんか末恐ろしいですね。
全く突っ込みどころが無い!完璧!とはさすがに言えません。
「空席の如何に関わらず、飛行機内に楽器の持ち込みは(まして無料では)出来ねーよ」とか「どう転んでもそこで感電はしねーよ。むしろ危ないのはシンセだよ」とか、楽器のディテールに拘ってきた本作だからこそ、言いたい点は多々あります。
特に『そのギター、日本のブランドじゃないでしょ?』というセリフは、言う人が言う人だけに噴飯モノでした。
加えて、一見さんお断り…とまでは言いませんが、TV版未見での鑑賞に耐え得る作りにはなっていないし、逆にコアなファンからしてみても、一部存在感が希薄になっている主要キャラが不憫に、もっと言えば怒りを感じる層も居るでしょう。
そもそもTV版の番外編との整合性が全然取れなくなっている点も大問題。
更に冒頭で少し書いた通り、この"梓に贈る歌"話を映画用として切り取った弊害もあって…
「TV版で、その曲練習してるシーン全然無いじゃん、所詮後付けじゃん」
…と、なってしまうこと。
個人的には「TVで全然描いて無いからこそ、映画で扱う余地があるんじゃないの?」と取りましたが、この点が飲み込めないと、作品全体を飲み込めなくなるリスクは確実に孕んでいます。
でもそんな、数多の突っ込みも"無粋!"とすら思わせるくらい、劇場版として非常に誠実な作りにはなってますよ。
と言うのも、先述した通りある種ドル箱的コンテンツになっちゃってますから、梓へはTV版とは違う新しい曲を作る話にして、新曲としてリリースするとか、話の結論を先延ばしにて3期に繋げちゃうとか、いくらでも商業主義に走る事も出来た筈なんです。
腐った精神で作られたとしか思えない、不誠実な『劇場版』だって、掃いて捨てるほどあるんですから。
でも決してそうはせず、丁寧にストーリーを構築して、気の利いた演出も散りばめて、劇場版長編を製作する必然を全うしただけで「良くやった!」と賛辞を贈る出来になってますよ。これだけで素晴らしいです。
あと最後に特筆しておきたい点として、やっぱり唯というキャラクターの描き方は秀逸の一言で、「天使」というこそばゆいフレーズも、こいつが言うとあまり嫌味に聞こえないんですよ。
ご丁寧に作中で「臭くねぇか?」なんてセリフを言わせてますけど、そこまでのストーリーで自然に放物線を描けているので、着地点としては全然臭くない。お見事です。
そんな訳でグダグダとした長文になってしまいましたが、誠実に劇場版を紡いだ製作陣には、素直に称賛を贈りたい良作でした。
分かり易い映画的な盛り上がりは無いんですけど、"映画化!"って響きに懐疑的になっている方も、TV版で楽しめた方なら絶対に観て欲しいなぁと思っております。