※当ブログの趣旨※

※当ブログの趣旨※

某映画雑誌編集者との酒の席で「映画レビューを書くべき」と勧められ、「チラシの裏で良ければ」と開始した、基本は身内向けの長文ブログ。
決して知識が豊かとは言えないライト映画ファンが中の人です。

・作品を未見の方には、(極力ネタバレせず)劇場に足を運ぶか否かの指針になれば
・鑑賞済みの方には、少しでも作品を振り返る際の余韻の足しになれば

この2点が趣旨であり願いです。定期的にランキングは付けますが、作品ごとの点数付けはしません。
作品によってはDISが多めになります。気分を害されましたらご容赦下さい。
たまーに趣味であるギターや音楽、サッカー観戦録、スノーボードのお話なども登場します。

2012/02/15

(いつも以上に気持ち悪い)長文映画レビューシリーズ 『ドラゴン・タトゥーの女』



ドラゴン・タトゥーの女

スティーグ・ラーソンの世界的ベストセラーを映画化したスウェーデン映画「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(2009)を、「セブン」「ソーシャル・ネットワーク」のデビッド・フィンチャー監督がハリウッドリメイクしたミステリーサスペンス。経済ジャーナリストのミカエルは、資産家のヘンリック・バンゲルから40年前に起こった少女の失踪事件の真相追究を依頼される。ミカエルは、背中にドラゴンのタトゥをした天才ハッカーのリスベットとともに捜査を進めていく。主演はダニエル・クレイグと「ソーシャル・ネットワーク」のルーニー・マーラ。---映画.comより抜粋


先に鑑賞したい映画が山ほどあった中、この作品を優先して観た理由は一つ。「デビッド・フィンチャーだから」。『セブン』、『ファイトクラブ』は大ファンだし、『ソーシャルネットワーク』でも面目躍如を見せたこのデキる男を信頼して、プライオリティをすっ飛ばして観て来ました。いつも通り当方のスタンスを先述しておくと…

■スティーグ・ラーソンの原作小説三部作は全て未読
■スウェーデン版の映画化も全て未見
■屈指の“愛猫家”

…という、『AUTB』に続き完全な「童貞状態」であり、ネコを愛してやまない人間である事を踏まえた上で、以下お読み頂けましたら幸いです。

とにかく冒頭から宣言したい事。この作品は……

「ネコ映画」である!

この一言で集約してもいいくらい、もう誰が何と言おうと本作は「ネコ映画!」「ネコを愛でる為の作品なんだ!」と、当ブログで初めてフォントサイズを変えてまで高らかに宣言させて頂き、以下はいつも通りの駄文でお送り致します。


※以下、多少のネタバレが含まれます※


今回は(一応)ミステリーという事で、いわゆる“謎解き”部は避けて語りたいと思います。と言うか、カッコつきで(一応)とした通り、ぶっちゃけこの映画、ミステリー部はどうでもいいとすら思えるくらい、主役二人の、とりわけ『ドラゴン・タトゥーの女』その人であるリスベット・サランデルの、キャラとしての魅力に尽きる映画です。この人を描きたいが為にコロンビアが権利買ったんじゃないの?

ミステリーの設定は、なんてこたぁないスウェーデン版の『犬神家』(ハつ墓村でもOK)です。これだけで日本人ならスッと物語に入っていけることうけあい。あとはフィンチャーの系譜で『セブン』の雰囲気も少し漂いますね。伏魔殿さながらの一族のドロドロ劇が、聖書になぞらえたような猟奇的な連続殺人事件に結び付く…という展開なのですが、お世辞にもミステリーとしての語り口は達者とは言えず、非常に分り辛い作りになっています。

これは作中で主人公に「どなたがどなただか混乱して…」と言わせてるくらいですから、敢えて入り組んだ作りにしているのでしょう。原作ファンなら恐らく問題無く飲み込めるのだろうし、未読組としては追って小説を読みたくなる効果もありました。ただ真犯人が実にショボい。シリアルキラーらしい存在感皆無。これはいただけなかった。

でも繰り返しますが、本作はキャラ映画(断言)なので、ミステリーとしてどうこうなんて能書きは必要無い(断言)!
なんせ、ミカエルとリスベットの二人の視点で物語が進行して、事件解決の為にこの二人の物語がクロスするまでにたっぷり1時間以上を掛け、徹底して二人のキャラを掘り下げるんです。
特にリスベットは、屈辱でまみれてもタダでは起きず、大人しく服従したかの様に見せてからの……全力の反撃!隠していた爪の鋭さと恐ろしさたるや、まさにネコ!!
ミカエルも社会的に崖っぷちに陥り、伏魔殿での謎解きを迫られるさなか、ついついネコを匿ってしまう。リスベットと初めて接触するシーンも、ネコを匿った時と同様「とりあえずエサをやる」。根は優しい、憎めない男である象徴として、ネコが効果的に作用しているわけです。

そして、そんな二人がタッグを組み、いざ真犯人を突き止めん!と意思を疎通させ結託する、まさにキッカケとなるのが……前述した通り、ショボいシリアルキラーの手に墜ちた“ネコ”。このシーンを観た瞬間に本作の真犯人は、全世界50億人の愛猫家を完全に敵に回しましたよね。「こんなヤツぁ生かしちゃおけねぇ!!」と。「やっちまえリスベット!!」と。
そもそもこの真犯人、劇中に限って言えば、実は自分の思い通りに出来たのはこのネコくらいなんですよ。実にショボい。そしてリスベットという最強のネコに返り討ちに遭う。こんなショボいラスボスは、あんな最後じゃヌル過ぎる!とも思いましたが、まぁリスベットの手が直接汚れなかった事で良しとしてやります。

いつもに増して非常に気持ちの悪いテンションで綴っておりますが、キャラを抜きにして、今作でもフィンチャーの手腕は流石。
カレンOの歌う『移民の歌』に乗せたオープニングの映像がソリッドでメチャクチャ格好良いし、観てるだけで凍えてくる、色調を抑えた冷たい画の作りも良い。リスベットのジリジリとした憤怒を観客とリンクさせてくれる音の使い方や、クールの一言に尽きる“エスカレーターアクション”も最高。「少しやり過ぎなのでは……」と言いたくなるリスベットへの凌辱シーンも、その後のリベンジ劇で最高のカタルシスを生成するのに一役買ってくれましたね。「世のアホな男どもなど、全てリスベット様の手で●●●●されてしまえばいい!!」ってなもんですよ。

「リスベットがミカエルに惹かれる理由が分り辛い。描写不足」という声もあるようですが、良いんですよそれで。だってネコなんだもん。気まぐれなんだもん。惹かれたというより“懐いた”のが正解なんですよ。脳出血で倒れちゃった弁護士のおじいさんが、それまでのリスベットの宿主だったんですよ。本作のラストシーンが実に顕著で、リスベット自身、「ミカエルへの感情の正体が何か」が分かっていないんじゃないですかね。
ミカエルもミカエルで、思わずノラを匿っちゃう男としてちゃんと描いてますから、突然“ネコ”が胸元に飛び込んで来たら、そりゃー愛するのが人情ってモンでしょうよ!ネコを通して見ると、優柔不断なミカエルも途端に愛らしいキャラに見えてくるから不思議ですよね!

<結論>
原作やスウェーデン版の映画ファンが観た評価は、どうも“もう一つ”感があるようです。ミステリーとしての脇の甘さも確実にあるとは思います。しかしとにかくリスベットの佇まい、フォルムが素晴し過ぎて、ここだけは非の打ち所がないのでは。『ソーシャルネットワーク』で、凡庸な女子大生を演じていたルーニー・マーラと同一人物とはとても思えない。オスカーノミネートも納得の一言。

個人的には、早く続きが観たい!小説もスウェーデン版も全部観たい!3部作全部追いかけたい!っていうか、この凸凹コンビの活躍がもっともっと見たい!!!と思わせてくれた名作でした。ネコって本当に素晴らしいですよね。